日本語には、漢字の一部だけが異なるよく似た言葉がたくさんあります。
みなさんも、「この二つの言葉にはどんな違いがあるのだろう」と疑問に思ったことがあるのではないでしょうか。
例えば、字面がよく似た言葉に「醗酵」と「発酵」があります。
味噌や醤油をよく使う日本人にとって身近な「発酵」という言葉。
どうして二種類の表記があるのか、考えてみたことはありますか?
醗酵と発酵、意味は同じ
実は、「醗酵」と「発酵」という二つの言葉に本質的な違いはありません。
発酵とは、酵母菌などの微生物が有機物を変化させ、アルコールや乳酸など、様々な物質を作り出す働きのことです。
この作用は、酒やチーズにヨーグルト、パンやキムチなど、古くから世界中で様々な食品の製造に利用されてきました。
特に日本では、味噌・醤油・納豆などの大豆食品や漬物といった伝統的な食品を作る際に利用されてきた歴史があり、日本の発酵技術は世界一とも言われています。
「醗酵」と「発酵」は、どちらもこの作用のことを指し、意味は同じです。
では、なぜ二種類の表記が存在するのでしょうか。
二種類の表記が存在する理由
元々は、「醗酵」という表記が用いられていました。
「醗」という字には「酵素が広がってゆくこと」「穀類を醸造して酒・醤油などを作ること」という意味があり、さらに古くは「酉(とりへん)」の右側に「發」と書く字を用いていました。
しかし、この「醗」という字は常用漢字に含まれていません。
常用漢字とは、日本政府が選定した、日常生活において日本語を書き表す際に使用する目安となる漢字です。
常用漢字でない字は、法令や公式な文書、新聞などでは、より簡略化した字に置き換えられる慣習があります。
加えて、ワープロ入力が主流となった現在では、パソコン上で入力や表示ができないことがあるという理由からも、常用外の漢字の使用は控えられる傾向が強くなっています。
「醗酵」という言葉も、例えば食品衛生法に基づく乳等省令など、法令の文中に登場することがあります。
これらの理由から、「醗酵」という言葉は「醗」を常用漢字に置き換えた「発酵」という表記で書かれることが多くなっているのです。
また、「醗酵」「発酵」のほかに「はっ酵」という表記も見られます。
これは、常用漢字でない「醗」を他の字で置き換えずに平仮名で表記したもので、ヨーグルトなどの商品のパッケージに表示されている種類別名称には、「はっ酵乳」と書かれていることが多いようです。
一方で、古くからある発酵食品企業の社名などでは、「醗酵」という表記になっている場合が多く見られます。
「醗酵」「発酵」、そして「はっ酵」、意味は同じですが、どのような場面でどの表記が用いられているのか、チェックしてみるのもまた面白いのではないでしょうか。
まとめ
・「醗酵」と「発酵」の意味は同じ
・「醗」という字は常用漢字ではないため、「発酵」という表記が広く用いられている
・「はっ酵」という表記もあり、様々な場面でこれらの表記が使い分けられている